序論/
インドネシア・バリ島の朝、大きなお盆にヤシの葉や花びらでできたお供え物・チャナンをたくさん載せた人が家のあちこちにそれらを置いていく。
チャナンは、道路わき等の公共スペースでもいたるところに見らる。
建物の前には魔除けの石像が置かれ、儀式では神へ捧げるダンスがガムランの音楽に合わせ踊られる。
信仰が生活に根付いている。
バリ島の信仰はどんなものだろうか?
宗教/
インドネシアでは国民の86%がイスラム教徒、11%がキリスト教徒、2%がヒンズー教徒となっている(2019年,宗教省)。
わずか2%のヒンズー教徒の多くはバリ島民である。
バリ島は、14~16世紀にかけて、島の西側に隣接するジャワ島の中東部で栄えたヒンズー教王国マジャパヒトに征服され、ヒンズー化した。
現在島民の9割はヒンズー教と土着宗教が融合したバリ・ヒンズー教を信仰している。
寺院/
バリ島にはヒンズー教の神々をまつっている寺院が1万以上ある。
寺院の数を1万とすると、人口比では1万人当たり23寺院(バリ島の人口は430万人)、面積比では1㎢当たり1.7寺院(バリ島の面積は5,780㎢)である。
日本は、1万人当たり6寺院(日本の寺院数は7万7千、人口は1億2千万人)、1㎢当たり0.2寺院(日本の面積は378,000㎢)なので、バリ島の寺院の数の多さがわかる(2016年,文化庁宗教統計)。
サラスワティ寺院
神々/
インドネシア共和国憲法の前文にある建国五原則(パンチャシラ)のうちの一つに「唯一神への信仰」がある。
インドネシア国民の9割近くは唯一神アッラーを信仰するイスラム教徒なので整合がとれている。
しかし、バリ島民の多くが信仰するバリ・ヒンズー教は多神教なので憲法との整合がとれない。
そこで、すべての神は唯一神サン・ヒャン・ウィディ・ワサの化身であるとすることにより憲法との整合性を持たせている。
<主な神>
サン・ヒャン・ウィディ・ワサ
バリ・ヒンドゥーのオフィシャルな唯一神。
目に見えないとされる。
ブラフマ
バリ・ヒンドゥー教3大神のひとりで、4つの顔をもつ。
世界の創造と破壊後の再創造を担当する神。
「火」そのものとされ、火難除け、家内安全の神。
ウィスヌ
3大神のひとり。
災いからこの世を助ける救世主。
スリ
ウィスヌの妻
稲穂を手に持つ五穀豊穣の女神
ガルーダ
人々を害するものを退治する神聖な鷲で、ウィスヌの乗り物。
国営航空会社ガルーダ・インドネシア航空のロゴマークやインドネシアの国章に使われている。
インドネシアの国章
シワ(シヴァ)
3大神のひとり。
破壊神で、世界を破壊して次の創造に備える役目。
ドゥルガ(ランダ)
シワの妻パールヴァティの一側面
破壊神で、魔女ランダの顔も併せもつ。
「悪」の象徴で、バロンと対を成す。
バロン
獅子の姿の聖獣で「善」の象徴。
厄除け、悪霊祓い、疫病祓いの神
魔女ランダの宿敵
ガネーシャ
商売・智慧の神
シワとパールヴァティの息子
父のシワにより誤って首をはねられてしまい、慌てて象の首をはめたのが誕生逸話。
チャナン/
バリ・ヒンズー教の神々に対して供えられるのが、チャナンである。
一般的には朝夕2回、1回につき数十個、家のあちこちに供えられる。
チャナンは、椰子の葉でできたカゴに何種類かの花びらと細く切った葉を盛り付けてできている。
材料や既に出来上がったものが市場で売られている。
ウブド市場
ガムランと舞踊/
バリ・ヒンドゥー教の儀式や冠婚葬祭の際にはガムランに合わせて舞踊が演じられる。
ガムランは、青銅や鉄でできた銅鑼や打楽器による合奏で、特徴的なのは、木琴や鉄琴のように音階をもつ打楽器を数多く使用する点である。
舞踊は、神へ捧げるためのもので様々な種類のものがあが、特に、レゴンダンス、バロンダンス、ケチャックダンスは三大伝統舞踊として知られる。
レゴンダンスは、宮廷舞踊で、きらびやかな衣装を身にまとった女性ダンサーが踊る洗練された優雅な踊りで、手の動きに特徴がある。
バロンダンスは、善を象徴する聖獣バロンと悪を象徴する魔女ランダの果てしのない戦いを描いた舞踊劇である。
ケチャダンスは、ヒンドゥの神様が降臨するための、踊り手が円陣になって音楽にあわせて大合唱する宗教儀式を起源とする。
レゴンダンス
バロンダンス
ケチャックダンス
本格的なバリ舞踊を見るなら、バリ島の芸術の村・ウブドがおすすめ。
ウブドでは、毎晩さまざまな場所で公演が開催されている。
最もにぎわいを見せるのは、ウブド王宮(プリ・サレン・アグン)。
ウブド王宮ダンス公演基本情報
時間…毎日19:30~(ダンスの種類は日替わり)
料金…Rp100,000
チケット…ウブド王宮の周りにいる売り子から購入。
席…自由席のため、良い席で見るためには30分前から行くのがおすすめ。